白髪とは何か
白髪は色素が失われた毛髪ではなく、色素が付与されずに生成された毛髪です。その仕組みと毛周期について解説します。

毛髪への色素付与の仕組み
毛髪は、生成される段階では色素を持ちません。毛根内で作られる毛の元となる細胞は無色であり、そこに色素が付与されることで有色の毛髪となります。
この工程を担うのが、メラノサイト(色素細胞)です。
メラノサイトは毛根の底部、毛球部と呼ばれる領域に存在します。この細胞はメラニンという色素を産生します。メラニンは毛髪だけでなく皮膚の色も規定する物質で、日焼けによる皮膚の色調変化も、メラノサイトによるメラニン産生の増加によるものです。
色素が付与される順序は次の通りです。
- 毛根で毛の元となる細胞が生成される(この段階では無色)
- 近接するメラノサイトがメラニンを産生する
- メラニンが毛の細胞へ受け渡される
- 色素を含んだ毛髪が伸長する
毛髪の伸長と色素の付与は同時に進行します。またこの工程が生じるのは毛根内に限られ、伸長後の毛髪に後から色素が付与されることはありません。
メラノサイトは毛包という組織の中で機能している
メラノサイトは単独で機能しているわけではなく、毛包という組織に組み込まれた状態で働いています。
毛包には、毛の元となる細胞、毛乳頭、栄養を供給する毛細血管、周囲の細胞群が含まれます。メラノサイトはこの環境から信号と栄養を受け取りながら機能しています。
この関係は次のように整理できます。
- 毛包=工場が立地する土地とインフラ
- メラノサイト=色素を産生する工場
- α-MSHなどのホルモン=産生を指示する信号
工場が健在であっても、電力や原料の供給がなければ稼働しません。土地が整っていても指示がなければ産生は行われません。白髪の背景には、この3要素のいずれかが機能していない状態があると考えられます。
加齢では、この3要素が並行して衰えることが多く見られます。毛髪が細くなる変化と白髪の増加が同時に進行するのは、このためです。
この視点は対策を検討する際に関わってきます。詳細は別記事で扱います。
毛周期
毛髪は伸び続けるのではなく、一定期間伸長したのち成長が停止し、脱落して新たな毛髪が生成されます。この周期を毛周期(ヘアサイクル)といいます。
日本毛髪科学協会によれば、頭髪の毛周期は次の通りです。
| 段階 | 期間 | 状態 |
|---|---|---|
| 成長期 | 男性3〜5年/女性4〜6年 | 伸長を続ける |
| 退行期 | 2〜3週間 | 成長が停止する |
| 休止期 | 2〜4ヶ月 | 脱落まで待機する |
頭髪の約9割は、常に成長期にあります。
毛周期の長さは部位によって大きく異なります。眉毛やまつ毛の成長期は1ヶ月程度、腋毛は3〜5ヶ月程度で、太く長い毛ほど周期が長くなります。頭髪は最も長い部類に入ります。医療脱毛などで用いられる「毛周期は2〜3ヶ月」という説明は体毛に関するもので、頭髪には該当しません。
また、毛髪は1ヶ月に約1cm伸長します。この数値は、後述する評価時期の根拠となります。
白髪が生じる機序
メラノサイトが十分なメラニンを産生できなくなると、毛髪に色素が受け渡されません。その結果、無色のまま毛髪が伸長します。これが白髪です。
1本の毛髪が途中から白くなることがないのは、色素の付与が毛根内でのみ行われるためです。
「色素が失われた」ではなく「色素が付与されなかった」
この区別は、対策の設計に影響します。
白髪が色素の失われた状態であれば、既存の毛髪に色素を戻す方法を検討することになります。白髪染めはこの発想に基づき、外部から色素を付与しています。
しかし実際には、白髪は色素が付与されずに生成された毛髪です。したがって対象となるのは既存の毛髪ではなく、これから生成される毛髪であり、毛根内でメラノサイトが機能するかどうかが要点となります。白髪染めが根本的な解決とならないのは、この構造によります。染色しても、次に生成される毛髪には色素が付与されません。
ここで毛髪の伸長速度が関わります。毛髪は1ヶ月に約1cm伸長するため、毛根内で変化が生じても、それが視認できるまでには時間を要します。3ヶ月で3cm、6ヶ月で6cm。この長さの範囲で、新たに生成された毛髪を評価できます。白髪への対策が短期間で判定できないのは、この理由によります。毛根で色素が付与されるかどうかに働きかけるという考え方に基づいているのが、当院の白髪治療です。
なお、これは色調に関する話です。毛髪の太さやハリ・コシは、伸長を待たずとも成長中の毛髪の状態として変化が現れるため、色調より早く自覚されます。この時間差については記事3で扱います。
メラノサイトの機能が低下する要因
加齢 年齢とともに、メラノサイトの数と機能は低下します。
酸化ストレス 毛包内で発生する過酸化水素などの物質がメラノサイトを損傷します。通常はカタラーゼなどの酵素が分解しますが、加齢とともにこの分解能力も低下します。メラニンの産生過程そのものにおいて過酸化水素が発生するため、色素を産生する細胞が、産生の過程で自身を損傷する構造となっています。
遺伝的要因 メラノサイトの機能には個人差があり、その一部は遺伝により規定されます。
幹細胞の枯渇 メラノサイトは使用に伴い減少します。これを補充するのが色素幹細胞ですが、この幹細胞も有限です。
毛包環境の劣化 メラノサイトは毛包という組織に支えられており、加齢や血流の低下によって毛包が萎縮すれば、その内部で機能する細胞の働きも低下します。
色素幹細胞に関する2023年の報告
2023年、ニューヨーク大学の研究チームがNature誌に発表した論文により、色素幹細胞に関する理解が更新されました。
従来は、色素幹細胞は毛包内の一箇所(バルジ領域)に待機し、必要に応じて成熟した細胞を送り出すと考えられていました。他の幹細胞と同様の仕組みという前提です。
研究チームがマウスの毛包を追跡した結果、色素幹細胞は毛包内を移動していることが示されました。バルジ領域と毛球部の間を往復し、位置に応じて成熟したり未成熟な状態に戻ったりしていました。移動先で受けるシグナル(WNTなど)によって細胞の状態が可逆的に変化するという性質は、他の幹細胞では確認されていないものです。
白髪化した毛包を調べたところ、幹細胞はバルジ領域に留まったまま移動しない状態にありました。移動できないため色素を産生する位置に到達できず、成熟も生じません。細胞が消失しているのではなく、移動が停止している状態と報告されています。
研究チームは、この機序がヒトでも同様であれば、白髪の予防や改善につながる可能性があると述べています。
この報告はもうひとつの示唆を含みます。幹細胞の状態が、どこに位置し、そこで何を受け取るかによって決まるという点です。細胞そのものだけでなく、細胞を取り巻く環境が関与します。前述した毛包という環境に関する記述は、ここで研究レベルの裏づけを得ることになります。
まとめ
- 毛髪は生成される段階では無色であり、メラノサイトが色素を付与する
- メラノサイトは毛包という組織の内部で機能しており、土地・工場・指示の3要素が揃って色素が付与される
- 頭髪の毛周期は3〜6年。医療脱毛でいう「2〜3ヶ月」は体毛に関するもの
- 毛髪は1ヶ月に約1cm伸長するため、色調の評価には時間を要する。一方、太さやハリ・コシの変化はより早く現れる
- 白髪は色素が失われた毛髪ではなく、色素が付与されずに生成された毛髪である
- 対象となるのは既存の毛髪ではなく、これから生成される毛髪である
- 2023年の報告では、色素幹細胞は消失するのではなく毛包内で移動できなくなることが示された
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カウンセリングでは、白髪歴や進行の状態をふまえて個別にご説明します。
参考文献
- Sun Q, Lee W, Hirose H, et al. Dedifferentiation maintains melanocyte stem cells in a dynamic niche. Nature. 2023;616(7958):774-782. doi:10.1038/s41586-023-05960-6
- 公益社団法人日本毛髪科学協会「髪の寿命(ヘアサイクル)」
本ページの記載について
本ページは白髪という現象についての解説を目的としたものであり、特定の治療を推奨するものではありません。治療の適応や経過は個人により異なります。
当院の白髪治療は自由診療であり、健康保険の適用対象ではありません。使用する成分の一部には、国内において医薬品としての承認を受けていないものが含まれます。国内の正規取扱事業者を通じて入手しています。白髪の改善を目的として国内で薬事承認を受けた医薬品はありません。使用する成分について、重大な副作用等の報告は確認されていません。未承認の医薬品等を使用した場合に生じた健康被害は、医薬品副作用被害救済制度および生物由来製品感染等被害救済制度の対象外となります。
主なリスク・副作用:施術部位の一時的な赤み、腫れ、内出血、痛み、かゆみ等が生じることがあります。
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